正しいバックパック旅行用ストーブ(バーナー)の選び方
【】内は訳者註です。
第一段階:貴方の計画している旅の種類を考慮する
正しいバックパック旅行用ストーブを見つけるには、二つのことに焦点を合わせましょう−−【1】しようと思っている旅の種類と【2】楽しもうと思っている食事の種類。
何人分の料理をするのか(それはどれだけ大きなストーブを貴方が必要とすることになるのかに影響します)、どんな温度で料理をしようとしているのか(それは貴方が使う燃料の種類に影響します)、食事がどれくらい複雑なものになるのか(それは貴方のストーブの火力がどれだけ調節可能たるべきなのかに影響します)を、なるべく明確にしましょう。
第二段階:正しい大きさを選ぶ
バックパック旅行用ストーブには色々な大きさのものがあります−−貴方の懐に入るような軽量の小型ストーブから、長方形の旅行鞄に辛うじて入るような二つの燃焼火口を持つもの【ツーバーナー】まで。一般に、貴方の旅が短く、豪勢な食事と大人数の仲間を伴うのでない限りは、なるべく軽くて小さなタイプから選ぶべきです。
貴方の荷物に占めるスペースと重量を軽減する為、このようなストーブを探しましょう:
- 燃料と分離出来ること−多くのストーブは、バックパックに収納しやすく破損しにくいように外部燃料ボトル/缶を取り外すことが出来ます。
- 折り畳めること−脚部や基部、五徳を折り畳めると収納が容易です。
- 食器の内側に収まること−或る種のストーブは、よく使われる料理用具一式【コッヘルなど】の内側に収まるよう設計されています。これは大きなスペースの節約になります(鍋やフライパンに燃料がこぼれない様、ストーブを合成樹脂製のケース等にしまうこと)。
第三段階:貴方の燃料選択肢を考慮する
ストーブの特定の機種を見る前に、貴方の目的にはどの種類の燃料が最もよく合うか判断する時間を少し取りましょう。これは貴方の選択肢を狭めるのに役立ちます。
ブタンとブタン混合(液化石油ガス/LPG)
- 長所
- 簡便で綺麗な燃焼と容易な着火。即座に熱く燃え、予熱(プレヒート)を必要としない(予熱に関する更なる情報は、この頁最上部にあるリンク先を参照して下さい)。とろ火で煮る為に容易に火力を調整出来る。燃料がこぼれない。
- 短所
- 他の燃料よりも高価である。ガス缶を運び、処分しなければならない(多くは再利用不可能である)。氷結点【0℃】より低い温度では火力が減衰する(混合気体はその限りではない−ブタン或いはプロパンとイソブタン−は、冷たい条件でブタンだけのものよりよく燃える。純粋なプロパンは華氏零度【約-18℃】でもよく燃える。ブタン【ノルマルブタン】は華氏三十二度【0℃】以下ではうまく燃えない。)
- 総評
- 容易な調整可能性を求め、手入れや着火時の煩雑さを嫌い、僅かな余分の重量を自らの荷に加えることを厭わぬ、暖かめから中庸な気候下での野営者にとってはよい選択である。
- 【訳者補足】
-
各社のガス混合比率
- プリムス
-
G(ノーマルガス) |
ノルマルブタン100% |
- |
W(ウィンターガス)† |
ノルマルブタン80% |
プロパン20% |
T(パワーガス:気化促進機構付き) |
ノルマルブタン70% |
プロパン30% |
†ブタン36%/イソブタン36%/プロパン28%という情報もあり。
- EPI
-
レギュラー |
ノルマルブタン90% |
プロパン10% |
WS(ウインター) |
ノルマルブタン70% |
プロパン30% |
P+(気化促進機構付き) |
ノルマルブタン70% |
プロパン30% |
EXS(エキスペディション) |
ノルマルブタン60% |
プロパン40% |
- *snow peak
-
- 沸点メモ
-
ノルマルブタン |
-0.5℃ |
イソブタン |
-11.7℃ |
プロパン |
-42.1℃ |
ガスについて
登山等に使う場合、低温対策としては「沸点の低いプロパンを100%にすればいいじゃないか」というのが最も素朴な考えですが、プロパンは常温での蒸気圧が高く、安全性を確保する為には缶を強固にする必要があります。すると缶が重くなってしまい、携帯性が低下するので各社とも妥協できる範囲での配合となっているようです。
混合ガスの場合、大雑把に言えば「沸点の低い成分から先に燃える」ことになります。従って、プロパンを配合したものは(その比率がどうであれ)新品時にはプロパンから先に燃えます。プロパンがほぼ燃え尽きると、主に残りの成分(ノルマルブタンやイソブタン)が燃えることになります。
この観点からは、残ガス量が減ってきた時に最も低温に強いのは(上記三社の製品の中では)イソブタンを配合したスノーピークのGiga Powerガスだということになります。(Zippoのガス・カートリッジも同じ配合だという話もありますが、未確認。缶内側に気化促進機構が付いていて、ガスはイソブタンとプロパンの混合だということはサイトに明記してありました。)
なお、各社ともストーブに専用(自社製)以外のカートリッジを使用した場合の安全性は保証していません。ご留意下さい。【以上訳者補足】
灯油(液体:ケロシン)
- 長所
- 廉価、容易に入手可能(世界中どこでも)、高い熱出力、こぼした燃料は容易には発火しない(安全性が高い)。
- 短所
- 少々汚い(汚く燃え、臭い)。予熱(プレヒート)が必要(異なる種類の予熱用燃料を使えばより容易になる)、ストーブ部品がべとべとになりやすい。こぼした燃料はなかなか蒸発しない【いつまでも灯油臭が残る】。
- 総評
- 特に合衆国外部(そこでは白ガスやブタン混合気体のガス缶が容易く入手出来ないかもしれない)への旅行を企画している者には、安くて万能な燃料選択である。
ホワイトガソリン(液体:白ガス)
- 長所
- 安い、合衆国全域で容易に見つけられる。綺麗で着火も容易、こぼした燃料は素早く蒸発する。
- 短所
- 揮発性が高い(こぼした燃料は素早く引火しうる)、予熱(プレヒート)が必要(ストーブからの燃料が使用可能)。合衆国の外では見つけるのが困難かもしれない。【日本では、登山用品店の他にキャンプ用品を扱っているホームセンター等で入手可能。また、一部のガソリンスタンドで扱っている場合もある。】
- 総評
- 総合的に素晴らしいもので、北米を旅する上では如何なる天候条件でも完璧である。信頼性があり、廉価で有用である。
変性アルコール(液体)
- 長所
- 再生可能な燃料資源であり【「採るだけ」の石油系燃料と違い、木材等から生産可能だということ】、揮発性が低い。殆ど無音で燃焼する。アルコール燃焼ストーブは他の燃料を用いるものよりも可動部品が少なく、壊れにくい。
- 短所
- 低い熱出力の為、料理には長い時間と多くの燃料を必要とする。燃料は合衆国とカナダ以外では見つけるのが難しいかもしれない。
- 総評
- 特に貴方が平和で閑静でゆっくりな歩調のバックパック旅行を切望する場合、合衆国とカナダの旅では末長く使える、環境に優しい選択肢である。
無鉛ガソリン(液体)
- 長所
- 非常に安価であり、世界中で容易に見つけることが出来る。【自動車用ガソリン】
- 短所
- 汚く、すすけて燃え、頻繁にストーブが詰まりがち。極めて揮発しやすい(引火しやすく、危険)。
- 総評
- 通常は最後の手段としてのみ用いられる。極端に辺鄙な領域へ旅する者にとって、価格と入手容易性はこれを魅力的な選択肢たらしめる。
註:貴方のバックパック旅行用ストーブでは酸素を増し加えられたガソリンを使ってはいけない。冬期に合衆国各所で売られているものは、その添加物がゴムのストーブ部品と漏れ止め(パッキン類)を傷める。
多燃料ストーブ【マルチ・フューエル】
REIの扱っている多くのバックパック旅行用ストーブは二種類以上の燃料で使えるように設計されています。それらは単一燃料専用のものよりも価格が高く、機能を維持することが難しくなります。しかしもし貴方が幅広い目的地を訪れる予定であれば、その加えられた柔軟性【燃料選択肢の多さ】は余分な費用に見合ったものとなるでしょう。
【第四段階無し】
第五段階:貴方の為に役立つ設計のストーブを探す
バックパック旅行用ストーブには色々な形状、大きさ、設計のものがあります。ひとたび貴方が大まかな大きさと燃料種別を決定したなら、貴方の選択肢の吟味と貴方自身(或いはREI販売人)への質問をしましょう:
- そのストーブは準備がどれだけ容易ですか。それは使う度に組み立てが必要ですか。もしそうなら、その組み立ては容易ですか、複雑ですか。
- そのストーブは丈夫ですか。それは平らでない地面の上で安定していますか。鍋をその上に載せる際、均衡を取るのがどれだけ困難ですか。
- ガス缶を用いる場合、それは容易に着脱可能ですか。それが完全に空になる前に取り外せますか。
- そのストーブは着火がどれだけ容易ですか。予熱(プレヒート)が必要ですか。ストーブそれ自身の燃料で予熱が可能ですか【予熱用に別種の燃料が必要ですか】。
- そのストーブはどれだけ容易に制御できますか。火力の調整は容易ですか。とろ火は出来ますか。
- そのストーブは野外でどれだけ容易に機能維持出来ますか。自分で基本的な維持作業(メンテナンス)を行えますか。
第六段階:性能を考慮する
最後に、ひとたび貴方が貴方のストーブ選択を一握りの特定の型に狭めたなら、それらの総合的性能を考慮しましょう。良い方法は、REIの店内印刷比較表を見てこれをすることです【日本で言えば、例えばメーカーサイトや「Naturum」、「さかいやスポーツ」のwebショップ等でスペックを見較べる】。以下のような項目を考慮しましょう:
- 平均沸騰時間−これはそのストーブが如何に熱く燃えるかを測ります。【21℃の水1リットルを沸かすのに掛かる時間。日本では、代わりに最大出力([kcal/hour])で表されることも多い。】
- 燃料1パイント(0.473リットル)当たりの沸騰可能水量−これはそのストーブがどれだけ効率が良いかを測ります。これは、自動車が1ガロンで何マイル走るかを較べるのに似ています。【日本ではこの数字はあまり使われないが、他のスペックから理論値を算出可能な場合もある。】
- 最大火力での燃焼時間−これはストーブが燃料を補給される前に与えられた燃料でどれだけ長く燃えるかを測ります。【日本では燃料消費率([g/hour]や[ml/min.])で表されたりもする。】
貴方のストーブの効率を改善する為の心得
- 料理する時に鍋の蓋を使う
- 風防を使う
- 二、三日を超える旅では燃料交換器を使う(燃料の経済性を改善する為に)【「つめかえ君」の類か】
- 予熱にアルコールを使う(これは貴方のストーブをすすの無い状態に保つのに役立ちます)
- 貴方のストーブを適切に清掃・維持する方法を学ぶ
- 使う前に珈琲濾過紙を使って貴方の液体燃料全てを濾過する【ゴミの混じった灯油を使う場合等】
- 雪を溶かす為に太陽又は貴方の身体の熱を使う(貴方のストーブを使うよりも)
【訳者補足】
- 同容量の鍋(コッヘル)なら、深型より平型の方が効率が良い。
- 無闇に強火にしない。(炎が鍋の底から大きくはみ出ない程度に。)
- ガスの場合、寒冷時はカートリッジの入浴(!)やチャージャーの利用も有効である。
【和訳&加筆 by Rj/2003.11.10初出、2004.04.05改訂】