Rjの登高漫歩
山歩記 - 裏妙義:御岳〜丁須の頭〜鍵沢(2004.11.06)

last modified: 2004.11.19


概略

経路(標高) 地形図
麻苧の吊り橋(380m)〜麻苧の滝(450m)〜ザンゲ岩(640m)〜産泰山〜御岳(963m)〜丁須の頭(1050m)〜第二不動滝(700m)〜麻苧の吊り橋 Couloir 45l #2500G 南軽井沢 (北東)

†標高の値はおおよそです。

猿と鎖と紅葉と

西上州、裏妙義にある「丁須の頭(ちょうすのあたま)/丁須岩(ちょうすいわ)」に行ってきました。当日の天気は曇り後晴れで、遠望は得られなかったものの紅葉を楽しみながらの穏やかな散策となりました。

奇岩で知られる妙義山塊やその周辺は、第三紀後期中新世の一種のカルデラ火山の跡だそうです。「第三紀」ってのはおよそ6500万年前(恐竜が絶滅したとされる頃)から200万年前まで、そのうちの「中新世」ってのは大体2500万年前から500万年前までと言いますから、八ヶ岳やら日光白根等の生々しい火山と較べればもう「ぼそぼそ崩れ落ちつつあるミイラ」みたいなもんでしょうか。溶岩の硬い部分が残ってぎざぎざになっています。

参考

出発は釜めしで有名な横川駅近く、麻苧(あさお)の吊り橋近くの駐車場。きちんと舗装されていて、水の出るトイレもあります。そこいらに住んでる人も居る場所なので当然ですか。目の前の碓氷川脇には釣り堀があり、朝も早くからフライやルアーを振っている人が結構居ました。

吊り橋を渡り、登山届をポストに入れてまずは麻苧の滝を目指します。そこまでは観光客がサンダルでも入れる遊歩道。滝の少し手前で、きゃあきゃあ言っているひとが居たので何かと思ったら、野生のニホンザルでした。一匹。大きめだったので、若い雄かと思われます。初めはこちらを警戒していたようですが、私が彼に危害を加える意図の無いただのハイカーだと知ると落ち着いて静かになりました。(もし見かけても、餌をあげないで下さい。)

「第一不動滝」との別名もある麻苧の滝は、思いのほか見事でした。高さは40m程あるそうな。しばし見入ってから先へ進みます。いよいよ登山道へ。最初に岩場を鎖で上がります。鎖の脇には小さな水の流れ(滝)があり、手掛かりは希薄、足場は濡れた岩でつるつる滑ります。短い区間ですが、いきなり鎖頼りの登りとなりました。(結論としては、登り最難関の鎖はここでした。)

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ブレてる猿
1st-fudoutaki
麻苧の滝
kusari1-1
最初の鎖場

最初のぬるぬる岩場を越えて進むと更に二、三箇所程鎖の掛けられた斜面があります。今度はさほど鎖に頼らずとも通過できるようです(ここまでの鎖場をひとまとめにして「第一の鎖場群」とでもします)。しばらく急登が続き、やがて稜線に出る所が「鼻曲がり」と呼ばれる地点でしょうか。上に乗っていると分かりませんが、離れて見ると「空中にとびだしている」ザンゲ岩があり、足元の下界を見下ろせます。横川駅脇の「鉄道文化むら」にあるミニチュア鉄道の線路らしきものが距離感を狂わせてくれます。

そこからは基本的には稜線伝いに進みます。幾度か小さな上り下りを繰り返し、西に延びる緩やかな枝尾根を見送ると間もなく産泰(うぶたい)山。狭い山頂に石碑があるのでそれと判ります。東側はすっぱり切れ落ちていて、眺めはよろしい。まだ曇っていたので少々残念でしたが、下に見える斜面では色とりどりの木々が季節を鮮やかに示しています。少し休んでいたら、後ろから初老の男性単独行者がやってきました。先月末に丁須の頭〜三方境の稜線を歩いた折にはまだ紅葉が進んでいなかったけど今日はいい具合だ、というような話をしていました。でも歩き方が危うい。ちょっと心配です。この日このルートでは他にも幾人かの登山者に遭いました。さすが紅葉の時期の妙義です。比較的マイナーなルートと思っていたのに、他の人がこんなに沢山居るなんて。

先へ進みます。左の切れ落ちた崖の上を行くうちに、地図に「ルンゼの源頭をトラバースする」と書かれた部分へと出ました。Runse(独逸語)とは岩壁に侵食によって刻まれた岩溝のことで、要するに沢の上部の急な所です。ちょっと下り、水も無いので普通に通過しました。その先、「対岸」奥へ向かって踏み跡が続いています。ルンゼの上に向かう踏み跡もあります。どちらが正しい道か即座には判断が付かなかったので、ひとまず奥へ続く方に進んでみました。下への段差の先で踏み跡は途切れているようです。戻ってルンゼ源頭を更に詰める方向へ登ると、赤テープだったか黄色ペイントだったか何かの目印を発見。こちらが正しい道と判明しました。

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ザンゲ岩から横川方面
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産泰山付近の紅葉
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ルンゼ源頭付近の紅葉

まるで西上州に迷い込んでしまったかのような急登を進み、あたかも西上州のような痩せ尾根に出ます。って、ここは西上州でしたっけね。まあそんな感じです。踏み跡はそれなりにしっかりしていますが、東京の高尾山のような安穏な道しか歩いたことの無い人がいきなり単独でこの周辺に来ることは避けた方が無難かもしれません。

やがて巨大な岩塊(下に人の入れる隙間がある)の基部に出ると、上の斜めな岩の斜面には鎖が二本付いていました。岩は乾いていて凹凸もあるので鎖には頼らず登れますが、頼った方が楽かと思われます(ここの鎖をまとめて「第二の鎖場群」とします)。高度感はありません。巨大な岩塊の(下から向かって)左を巻く感じの道です。更にずいずい登っていくと、祠のあるちょっとしたピークに出ます。そろそろ御岳(おんたけ)かと思う頃なのですが、事前にwebで見た情報からこの先のピークが本当の御岳だということで通過。僅かに下って登るとすぐに石碑のある御岳山頂に着きました。やった。

産泰山で休んだので、ここは軽く表妙義や丁須の頭の写真を撮って通過。つつっと下り、しばしなだらかな道を進むとやがて再び西上州のような急登。また鎖場が登場します。と言うより、このルートにはその程度の頻度でしか鎖場は登場しない、と言った方がいいでしょうか。まずは第二の鎖場群と似たような斜めのでこぼこ岩に付けられたものが二本(だったかな)。一本目は先程より手掛かり足掛かりが少ない為、やや鎖頼りの登りとなります。高度感は無し。そしてその少し先に、昭文社の登山用地図には「ふられやすい鎖場7m」と書かれたもの(多分)が現れます。ここは、手掛かり足掛かりが豊富です。岩を抱き抱えるようにする場面がある&多少の高度感があるので、高所恐怖症の人にはこのルートで一番恐ろしい鎖場かもしれません。が、鎖にあまり頼らず登降すれば難易度自体は高くないでしょう(これらを「第三の鎖場群」とします)。

再び痩せ尾根上を進みますが、周囲は潅木に覆われていてそれほどの高度感はありません。だらだら進んで少し下り、最後の詰めに向かいます。大分前から目の前には丁須の頭が見えていて、だんだんそれがでかくなっていくという感覚です。丁須岩は巨大な岩塔の最上部にちょっこり乗っているように見えます。その岩塔の基部まで行き、「国民宿舎裏妙義」方面からの道を合わせると右に回り込みます。二、三の鎖場を通過し、丁須の頭があるピークと隣の三角点ピークとの間の鞍部から、丁須の頭に向かって斜めのでこぼこ岩壁を登る形となります。そこにも鎖がありますが、乾いていれば登りでは使う必要が無いでしょう(丁須の頭付近の鎖を「第四の鎖場群」とします)。鎖伝いに降りてくる人を待ったりせずに脇っちょから登りました。上には人がわらわら居るようでしたので自分の場所があるかやや不安でしたが、強行。

kusari3-1
鎖場#3-1
kusari3-3
鎖場#3-3
chousuiwa
見上げれば丁須岩

ということで、無事丁須の頭(の付け根)に到着。居場所はわずかに残っているようです。見上げると丁須岩には鎖が三本付いています。下の二本で「ハンマーヘッド」のくびれまで上がり、最後の一本でオーバーハング気味の箇所を越えててっぺんに立てるようです。私の行った時にはクライミング装備を持った連中がそこを占拠していたので、先におひるごはんを食べることにしました。ラーメンと雑炊。この頃には晴れていて風も無かったので、のんびりした気分で遠くを眺めながら食べました。食べていると、丁須岩に登っていた誰かがエイト環(登攀時、懸垂下降という技を行うのに使う為の金属製の道具)を落とした音が聞こえました。あんなもんが下を歩いている人に当たったらおおごとです。ヘルメットなんか被ってないから、「痛い。」だけでは済まされない事になる可能性もあるような。私は登攀をしないので良く分かりませんが、エイト環を落っことすのって普通なんですかね。どこぞのwebで、エイト環を落とさないように装着する簡単な手法を書いている人がいましたけど、そういうことってあまり教えられないもんなんでしょうか。。。

人がはけたのを見計らって、丁須岩に登ってみました。最初の二本の鎖は楽ちん、くびれまでは(ここまで自力で登ってきた人なら恐らく)誰でも上がれます。その先、オーバーハングの所は、ボルダリング等の経験が無い私は腕力頼りで鎖にぶら下がって登るほかありませんでした。オーバーハングを越えた先、鎖を離して立てる所まで行ってみましたが、鎖にぶら下がっている時に腕力が尽きたり腕を攣ったりしたら死にます。その上は岩がでこぼこしていて手足で普通に(三点を確保したまま)登れそうでしたけど、びびってやめにしました。次回以降のお楽しみとします。

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丁須岩付近から西大星
chousuiwa
しつこく丁須岩
overhang
オーバーハング気味

下り。丁須岩の付け根から斜め斜面を鎖頼りでしゃらしゃら降り(手抜き)、隣の三角点ピークとの鞍部から鍵沢(かぎさわ)源頭を下るルートを取ります。いきなり鎖です。暗いじめじめした斜面で、濡れ落ち葉を被った岩はぬるぬる滑ります。かなり滑ります。斜度はさほどきつくないものの、比較的新しいビブラムのモンタニア(登山靴等に使われるゴム靴底の名前)はちっともグリップしませんでした。で、鎖頼り。両手に鎖を持って斜面に立ち上がり(鉛直方向に立つのではなく、斜面に対して垂直に近くなるように立つと少しは靴底の摩擦を使えます)、鎖を手の中でじゅるじゅる滑らせながら後ろ向きに降りました。そんな鎖がしばらく続きます。一度、滑ってこけました。高度感の全く無い鎖場ですが、下が乾いていない限り人によっては結構大変かもしれません(鍵沢上部にある一連の鎖を「第五の鎖場群」とします)。

特徴的な岩峰「西大星(にしおおぼし)」を見ながらじゅるじゅる下るうちに、ひとしきりで道は緩くなります。その後は時折にゅるにゅるの岩を下る鎖が登場するのみで、徐々に道は穏やかになってゆきます。でも、地図に「ヒルに注意」と書かれている通り、じめじめしています。ヤマビルが元気になるのは気温の高い時期なので、この日はまったくその気配はありませんでしたが、夏はちょっとすごいのかもしれません。スパッツがあるといいでしょう。

やがて第二不動滝へと出ました。深い森の中、なかなか見応えのある滝でした。滝のすぐ下で鍵沢を左岸(下流に向かって左)に渡り、その後はずっと左岸沿いを行きます。数多くの名も無き滝や淵を見ながらの下りです。傾斜は緩く、時折崩壊気味の箇所があるほかは特に問題ありません。下へ行くに従って杉等の植林帯に入ったり出たりしながら進み、朝に見た第一不動滝上部の手前で沢を離れ尾根に登り、見晴らしのいい尾根の突端部(確認しそびれたけど恐らく地図に「大山祇神(おおやまつみのかみ)」石碑と書かれた地点)からは山腹を巻く感じになりました。で、碓氷川も近くなった最後は急降下。無事、釣り堀の事務所みたいな所へと出ました。釣り堀沿いを朝渡った吊り橋まで戻り、駐車場に帰着。万歩計は15495歩でした。

kusari5-1
鍵沢への下降点
kagisawa-kouyou
鍵沢沿いの紅葉
2nd-fudoutaki
第二不動滝

最後に鎖場についてまとめ。まず麻苧の滝から御岳を経由するルートでは、「第一の鎖場群」の最初の一本が技術的には最難です(岩が乾いていれば別かもしれませんが)。高度感という点では「第三の鎖場群」の最後、「ふられやすい鎖場7m」が一番でしょうか。いずれも、丁須岩の最後の一本よりは楽です。

次、鍵沢ルートにある「第五の鎖場群」について。こちらは、本数は多いものの岩が乾いていれば難しいとか恐い所は殆ど無いと思われます。しかし、岩の乾いている時がどのくらいあるのか私には分かりません。湿っていると、かなりの数の鎖で腕力を使うことになるでしょう。(沢登りに使うわらじ等を履いていればグリップするのかしら?そしたら大分楽になりそうですけどね。)

尚、鎖の本数については記述が不正確かもしれません。印象に残っていない=無くても全く問題無いような鎖は、私が忘れている可能性がありまくります。

余談。いわゆる「表妙義縦走」ルートには、丁須岩の最後の一本と同程度に危なっかしい箇所(=鎖にぶら下がり、落ちたらおしまいな所)があります。それ以外にも鎖場の数は多く、高度感があり、ルートファインディングは難し目です。使う神経やら腕力の総量は、今回私の歩いたルートよりもかなり大きくなります。御注意下さい。

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釜めしは900えん。店は24時間営業とな。


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