last modified: 2010.03.07
経路(標高†) | 鞄 | 靴 | 地形図 | 山域 |
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舟山十字路(1620m)〜立場岳(2370m)〜無名峰(2540m/2564m)〜P1手前のコル[テント泊]〜阿弥陀岳(2805m)〜御小屋山(2137m)〜舟山十字路 | Scarpa Triolet | Alpine Pack 60 | 八ヶ岳西部(甲府) | 八ヶ岳 |
†出発/通過/帰着点の標高はおおよそです。
無名峰手前より、阿弥陀岳山頂と南陵P4〜P1。でかいのがP3。 |
朝、山へ行くにしてはのろのろ出発。舟山十字路への道は一部凍結していたが、そのままチェーンを履かずに十字路すぐ先の駐車場まで乗り入れる。先着一台あり、トレースからは、今日入った人ではなく昨日入った人と思われる。因みに前回ここを訪れたのはもう五年以上も前、秋の晴れた日のこと[→ 山歩記 - 八ヶ岳:阿弥陀岳(2004.10.01)]。再訪のこの日も晴れていた。二月なのに、前日から異常に気温が高い。
前回は立場岳の南側、旭小屋から尾根に取り付いた。今回は、舟山十字路の先のゲートを越えてそのまま林道を30分程ちんたら進み、広河原橋の少し先で右側の広河原沢へ折れる。堰堤があるので渡る。そこから尾根への取り付き。旭小屋側よりも人が多く入っているようで、踏み跡はしっかり付いている。がちがちに凍った急斜面で、迂闊にもアイゼン無しで登り始めたところ、間も無く「もうむり!」となった。技術や気合の問題ではなく、物理の領域。大木の袂の平らな場所でアイゼンを着ける。これで一安心。
僅かな登りで尾根上に出ると、日向では完全に土が出ていた。アイゼンを一旦脱ぐ。立場岳(たつばだけ;或いは立場山)へ向かって進むとすぐに旭小屋からの道が合流する。しかし、日陰に入ると道が見事に凍結していて、「またむり!」となった。しぶしぶアイゼンを装着する。その後しばらくは樹林帯の単調な登り。時折視界の開けた所が現れ 、遠くの山々が見える。適地でまったりと休憩を入れつつのんびり登り、傾斜が緩くなると立場岳山頂は近い。しかし、立場岳山頂は樹林に囲まれ展望は無いのでそのまま通過する。
立場岳を越えると視界は開けてくる。前方に目指す阿弥陀岳やその奥の赤岳、右方には権現岳の荘厳な姿が迫る。「青ナギ」と呼ばれる崩壊地まで下る。この辺りまで、それなりに雪はあるもののしっかりしたトレースがあり、ラッセルのラの字も無かった。平坦地には数ヶ所テントを張った跡があり、週末は知らないが平日であれば宿泊地の確保に困ることは無さそうだった。
青ナギを過ぎると通称「無名峰」への急登となる。雪はやや柔らかくなり、多少の踏み抜きも出てくるが、夥しい数の踏み跡があるため特に苦戦は強いられない。上から、三人組の男性が降りてきた。舟山十字路の先の駐車スペースに車を置いていた人達だろうか。慣れた様子でざしゅざしゅと下って行った。
自分もわしゃわしゃと登り、やがて「無名峰」の標のある頂へ。よく晴れて展望が良い。痩せ尾根を僅かに進み、地形図の2564m峰を過ぎると、宿泊予定のコルを見下ろせる。他の人の山行記でしばしばこの2564m峰を「P1」としているのを見かけるが、そうするとその先のルート上にある岩峰がP2,P3,P4(←でかいやつ),P5となってしまう。一般にはP1〜P4とされているようなので、この2564m峰は数えないもしくはP0とする、つまり、幕営に適したコルは「P1とP2の間」ではなく「P1の手前」と表現するべきだと思う。実際、森林限界を超えて岩峰らしくなるのはこのコルの先からである。(異論は認めます、つーか、誰か正しいところを教えて下さい。)
2564mピークの先、幕営地のコル。正面に山頂、右のP3がでかい。 |
コルには何ヶ所もテン泊(幕営)の跡があり、他に誰も居ないので一番良さそうな場所を使わせて貰うことにする。整地しなくてよいのでらくちん。コルから急な登りが始まる直前、丁度風の来ない所。テント固定用のアンカーはいつもの自作竹ペグと、この後限界を感じることになるBlack DiamondのRaven(縦走用ピッケル)など。因みにここまではストックが随分役に立った。そしてここまでもここからも、わかんじきとショベルの出番は無かった。
テントを張り、FM FujiのPump-up Radioなぞを聞きながら食事やら何やらをする。段々夕陽が傾くにつれ、眼前に大きく聳える主峰、赤岳が文字通り赤く染まって行く。雲海の向こうには富士も見える。日帰りでは味わえぬ、至福の時間。二月なのに恐ろしく気温が高く、日没近くまで氷点以上あった。日没後も-5℃位までしか下がらなかった。想定より10℃以上高い。夜空は月が明るく星は今一つだったが、諏訪方面の夜景が夜風にちらついて綺麗だった。20時のPump-up radio終了と共にラジオを切って就寝、爆睡。リッジレストデラックス、恐ろしくかさばるが寝心地は良い。
幕営地より、木曾御嶽と沈む夕陽。 |
4時に目覚ましで起きる。まだ真っ暗だが晴天、気温は-8℃前後。暖かい。エスパースsolo-x内壁には部分的に霜が少々、シュラフはカバー無しで完全にドライ。このテントは実はすごく良いテントなのかもしれない。冬用としては初めて買ったものなので、他のテントとの比較は出来ないけれど。
ラーメンを作って喰い、粉末のミルクティーを溶いて飲み、夜明けを眺め写真を撮ったりしながら菓子パンも食べて、ようやく撤収作業へ。寝起きはテンションが低いせいか、いつも思いの外仕度に時間が掛かる。贅沢な時間なので、慌てて出発するのが勿體無い気もする。急ぐ行程を組むより、余裕を持って行動する方が性に合っているのだと思う。ぐうたら、とも言う。
夜明けの奥秩父と富士。 |
陽を浴びて赤から白へと輝きを変える山々の写真をたっぷり撮ってから、7時前に漸く出発。アイゼンをがっちり履き、ストックはザックに括り付け、愛用のBD Raven(縦走用アックス)を手に雪の急斜面を登り始めた。天気図から、お昼前後までは天気はもつと見ている。阿弥陀山頂から御小屋尾根上部の急斜面を抜けるまでは恐らく大丈夫だろう。行く手のP3巻きのガリー(岩溝)がどうなっているか、見てのお楽しみ。(当然、自分の装備ではあまりにむりそうだったら引き返すことを考えている。)
P1、P2は小規模な岩峰、さしたる苦労も無く半ば登り半ば巻く。そしていよいよ最大のP3へと差し掛かる。ここを直登するのは空身であれば恐らく技術的にはさほど難しくないが、重荷なので冒険は出来ない。素直に左を巻く。前回も巻いた。巻いた先、登るべきガリーへ出る直前でちょっと狭い岩棚のトラバースがあるけれど、そこは特に問題無し。左が切れ落ちていておっかない気もするが、足場はしっかり確保出来る。
さて問題のガリー(ルンゼ、クーロワール、岩溝;V字谷が稜線に届くところ)。前回来た時の状況から想定した通り、取り付き部はちゅるんちゅるんの氷に覆われていた、かりかりに研いできたRavenのピックを叩き込む。刺さりゃしねえ。同じくかりかりに研いできたLXT-12の前爪を蹴り込む。刺さりゃしねえ。ここを越えられなかったら敗退決定だが、ちゅるんちゅるんの氷の向こうにがしゃがしゃの部分があったので、そこへravenを叩き込む。がしゅっ、っとな。効いた。よしゃ、行ける。
しかし一歩目の足場は十分に得られない。向こう側へ踏み越えるのは少し大変だった。このガリーは実際この後に登る箇所よりも下方が急な崖になっているので、この取り付き部が一番高度感のある場所だったりする。多少どきどきはしつつも意外と竦むことなく向こう側へ渡り、上へと向かい始めた。
登り始めるとのろのろだが確実に進めるようになる。アイゼンの前刃はしっかり刺さらない、もしくは刺さっても崩れて効かないので、ピッケルのピックを叩き込める場所を探り、何度かがしょんがしょん打ち込み直してざしゅっと効く場所に決まったらアイゼンの山側の刃を叩き込む。これを繰り返す。幸い、斜度が緩めなので(壁と呼ぶには緩過ぎるが、ただの坂と言うにはやや急な部類)、アイゼンががっつり決まらなくても何とか登れる。
P3巻きのガリー。蒼氷には'刃'が立たない。 |
ここは、雪や氷の状態によってすごく難度が変わると思う。他人の山行記を読むと、ふかふかの雪に覆われぐずぐず崩れておっかなかったという記録もあり、締まった雪で楽々登れたという記録もあり、ダブルアックスとアイゼン前爪をがしがし刺しながら登ったという記録もある。以前来た時に旭小屋から尾根に出たところで出逢ったおっちゃんは、冬もさほどの困難は無いと言っていた。当時の自分は冬にこんな山へ来るなんてまだ無理だと思った。そのおっちゃんはエキスパートだったのかもしれない。今回のこの氷の状態、縦走用アックスなんざロクに刺さらねえ、縦走用アイゼンもロクに決まらねえ所の多いぐずぐずの状態は、自分のようなへたれハイカーにとってはあまり楽とは言えないものだった。と言っても、時々靴の前半分が刺さってくれるような楽な雪の所で休んだりしながらちまちま登る。
やがて左側に草付きが目立つようになり、ホールドも豊富そうなのでそちらへ逃げてみることにした。このままぐずぐずの氷を単調な作業の繰り返しで登るよりも、違った斜面に入る方が経験値アップになるかな、と思ったのと、ガリーをさらさらとした雪が流れ落ちて来ていて、もしかしたら岩なども転がってくるかなと思ったから。ヘルメットは必要だとこの時知った。
草付きに逃げて、確かに経験値アップにはなった。草付きは、凸凹しているがすべすべで、或いは岩があってもぐずぐずに崩れてきそうで、途中で安心して掴める所が殆ど無くなったりした。がちがちの凍土には、やっぱり縦走用アックスのピックは全く刺さらなかった。二三度、どうルートを取るべきか立ち止まって考えた。いっそぐずぐず氷の斜面へ戻る方が安全かとも思った。軽荷であればほいっと次のステップへ上がれるような所でも、しっかりしたホールドが無く荷が重いとその「ほいっ」が出来ない。いや、出来るのかもしれないが、万一バランスを崩したら落ちてしぬ。まだしにたくないので、無理せず進めるルートを探した。
斜面自体「壁と呼ぶには緩過ぎる」のは変わらないため、ゆっくり落ち着いて考えれば無茶せず上がれるルートが見えて来る。沢登りなどの経験を積んでいる人なら、考える迄も無くすぐに見出せるルートなんだろうなと思う。自分も下から見た時は楽に行けると思って登り始めたはずだったけれど、しっかりしたホールドの無い領域というのはなかなか難しい。
二三箇所の問題を解くと、その先はらくちんになった。斜度が緩み、左の這松のリッジに出た。雪に乗り、ピックどころかスピッツェ(ピッケルの石突き部分)も刺さるようになった。因みにこの草付きを登っている途中、P3に取り付く前に振り返った無名峰に見えた三人組男性がガリー下部取り付きへ現れた。ぐずぐずの岩を崩したら彼らに当たるだろうな、と思ってちょっと緊張した。ま、彼らはヘルメットくらい被っていたけれど。
ガリーからリッジを抜けてP3の上の稜線に出ると、眺めは最高だった。気持ちいい。ザックを置いて小休止を入れる。遠くの南北中央アルプスが綺麗に見える。辿ってきた雪の稜線も、間近の赤岳も少し離れた権現岳も綺麗に見える。富士は雲海に浮かんでいる。気持ちいい。でもまだ山頂まではあと少しあるので、ケシキ眺めはほどほどにしてまた登る。
その先は特に難しい箇所は無い。崖を左に見てP4の左を巻き、その先の山頂直下で右側が綺麗なすべり台になっている狭い箇所があるが、ここも高度感はあるけれど足場はしっかりと得られるので、ゆっくり通過すれば大丈夫。間も無く、空へ近付く。山頂へと一歩一歩登り行く。山に登っていて、一番気持ちが高まるのはやっぱりこの瞬間だと思う。空へ昇り行く心地、登頂の瞬間。心が空へと届く。基本、高い所が好きな馬鹿なんだと思う。(同類の人、ごめんなさい。)そして、地べたを這いずるしかない自分の足で空へ届く感覚が好きなんだと思う。
P4上のすべり台と赤岳。 |
山頂には誰も居なかった。風は弱く陽は差して、360°のパノラマを心ゆくまで楽しんだ。遠く、乗鞍岳の左に、霞んではいるが加賀白山まで見えた。確か前回も加賀白山まで見えた。マピオンの「キョリ測」で計ると、概ね144km先。北〜北東方面もかなり遠くまで見えたが、山座同定は出来ていない。つまり、どの山が何だかよく分からんちん。まあ、どれが何でもいい。素晴らしいケシキを堪能するのみ。
山頂には誰も居なかったと書いたが、赤岳から中岳を超えてこちらへ向かってくる登山者三人組が居た。米粒のようだったがこれも恐らく男性三人組。何でみんな三人組なんだろ?それと、山頂で40分以上まったりしていたが、P3ガリーで追いついてきた三人組は結局山頂に現れなかった。多人数だと色々時間が掛かるのかもしれない。ただ、単独だと難しい所へも行けたりするようだから、一長一短か。
山頂から、登ってきた南陵とその奥の権現岳。右奥は南アルプス。 |
前回、無雪期にこのルートを歩いた際、核心部は間違いなくP3ガリーではなくこの御小屋尾根上部だった。ぐずぐずの急斜面、落石を起こさずに下るのが非常に難しかった。雪が着いた状態ではどうなるのか。山頂で休んでいる間も、核心部はこれからだと肝に銘じ、気を緩めることは無かった。
そして下り始める。小ピークを梯子で越え、中央稜との分岐からが本番。見下ろす斜面は、予想通り手強そうなものだった。簡単に言うと、P3ガリーより少し緩く少し柔らかい斜面がしばらく続く。アイゼンの山側の刃を蹴り込めば一応足は止まるが、ずるっと崩れたらそのままずっと下まで滑り落ちてしまうだろう。まだしにたくないので、のろくなるが後ろ向きになってピッケルのピックを打ち込みながら一歩一歩下った。
御小屋尾根上部。所々、ロープが露出していた。 |
慣れた人なら前を向いたままがしがし下れるのかもしれない。自分も、たまにミスってもいいならそれが出来るとは思う。しかし、たまにでもミスるとアハハでは済まされないので、無理せずのろのろ後ろ向きに下った。P3ガリーと違って叩き込んだピックが弾かれる所は少ない為、気持ち的には楽ではあった。ただ、長いのでその分大変と言えば大変。
しばし下り、やがて斜度が緩んだ。荷を下ろして一息つく。天気はまだ崩れてこない。気温は高い。これで-15℃の吹雪だったら、だいぶ寒々しい気分になっていたかと思う。樹林帯まではあと少し。下ってきた斜面を見上げる。大した距離ではないが、無事下れてほっとした。
その先は普通にがしがし歩き、あっと言う間に樹林帯へ入り、しっかりしたトレースを辿る。踏み抜きも殆ど無い。不動清水への導標を二回見送り、その先の木曾御嶽が見える地点にて眺めを惜しむように休憩。そんな時間も貴重に思いつつ。しばしの憩いの後立ち上がり、大分軽くなった荷を背負って平坦に近い樹林帯をずいずい進み、間も無く御小屋山へ到着。ここでも休憩した。休憩ばっか。体力的な要請よりも、この静かで穏やかな空間を楽しむ為に。「ちびT」ことカラ類の何かが啼いている。気持ちがほぐれる。
御小屋山への下り。 |
その先、尾根を下り始めて僅かで美濃戸だか美濃戸口だか(行った事無い)方面への確かな道を右に分け、更に10分ほど下るとまた美濃戸だか美濃戸口方面への荒れた道を右に分ける。そこまでの区間、土が出て来たが凍っている箇所もあった。その先は土の出ている部分が多くなった。前回下った時には案外長く感じたこの区間だが、二回目だからかやたら早く虎姫神社へと辿り着いてしまった。楽しい旅の終わりは早い。時折また雪を踏みつつすぐに林道へ出て、霜柱で盛り上がった土の踏み抜きにびびりながら歩いた。下手に踏み抜くと靴やスパッツがどろんどろんになる。
舟山十字路から伸びる林道へと出ると、右に車を置いたゲートが見える。前日は氷に覆われていたそのゲート先の路面は、三日目となる「暑い日」のお陰でアスファルトの路面が(轍状に)露出するまでになっていた。標高1600m強で気温8℃。二月なんだけど・・・
今回は諏訪南ICから帰った。実を言うと、来る時は諏訪南ICで降りるつもりだったのが間違えて小淵沢ICで降りてしまった。降りてからしばらく走り、観音平口のゲートまで来て間違えたことに気付いた。なんでやねん。