例えば富士宮口新五合目まで車で行って、眼下に駿河湾を見下ろして帰るだけなら、大した持ち物は要りません。普段、街へ出かけていく時と同じようなものでOKです。ちょっと寒いので、上着を持って行くくらい。しかし富士山頂まで登るとなると、それだけではやや心許ない。そこで、快適に登って下りてくる為にはどんなものが必要か、何があると便利か等について考えてみます。着ていくものについてもここで扱います。
- 雨具
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必須です。
登山用品店等で売られているゴアテックス製の雨具が最強です。しかし、今後も山歩きをする人はいいとして、そうでない人は一回の富士登山の為に2-3万円も出すのは辛い。その場合、ゴアテックス以外の防水透湿素材を使ったものでもいいでしょう。いずれにせよ、上下別になった「着る」雨具をご用意下さい。傘は風の吹く富士山だと捨て身のギャグくらいにしか使えません。
一口に「防水透湿素材」と言ってもその性能はピンからキリまであります。一般には値段の高いもの程高性能ですが、いわゆるホームセンターや「ワークマン」等の作業着屋さんで売られている数千円のものでも、無いより百倍以上ましだと思われます。
個人的に気になっているのが、ミズノのベルグテックEXという防水透湿素材を使ったもの。一万円くらいで、カタログスペックではゴアテックスに並ぶ透湿性を持っているようです。少し厚めなので、防寒上も有利。逆に軽くて薄いものでは、モンベルのスーパーハイドロブリーズ・レインウェアが気になっています。これも一万円くらい、ゴアテックスではありませんが、ゴアテックスに次ぐ程度の透湿性があるようです。
因みに、透湿性の全く無い雨具を着て山に登ると、汗で内側がびしょびしょになります。そして、気温が低かったり風が吹いたりすると、一瞬で凍えてしまいます。富士山は夏でも気温が低く、風が吹かないことは稀です。
- 飲み物
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お金持ちの人は、営業している山小屋のあるルートから登るならばそんなにたくさん持っていく必要はありません。500mlで例えば500円という値段が気になる人は、ペットボトルに水でも入れて持って行きましょう。水以外でも構いませんが、あまり味の濃いものは飲みにくくなります。市販のスポーツドリンクでも濃く感じます。半分に薄めるくらいでよいかも。また、緑茶や紅茶、珈琲等カフェインの入ったものはトイレが近くなります。トイレも有料です。(しかし、喉が渇いているのにトイレ代を惜しんで水分を控えるというのは無しです。身体に不調をきたします。)
どのくらい必要かは体質や天候条件、ルートにもよりますので一概には言えません。私が炎天下の御殿場口を登った時には3リッターくらい持ちましたが、日帰りなら普通は500mlボトルを三本くらいでよいと思われます。そのうち一本は真水にしておくと吉です。
なお、お金のある人も、ビール等酒類を飲んでから行動するのは止めておきましょう。自分だけの問題ではおさまらず、他人をも巻き込んだ事故を起こす可能性があります。飲みたい人は、下山してから(自動車の運転がある人はそれも終わってから)ぷはーっとやって下さい。山小屋泊の場合は夕食後に一缶くらいならいいかもしれませんが、雲上では下界よりも酔いが回るのでご注意下さい。
- 食べ物
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カロリーメイトの箱(四本入りのやつ)を三つくらい。
他には、飴やお菓子(甘いもの、しょっぱいもの両方)もあると楽しめます。おひるごはんは、山小屋で高くて不味いものを食べるのが嫌な人は好きなものを持って行って下さい。おにぎりは重たいけど水分を補給できます。軽くてカロリーの多いサンドイッチ等でもいいでしょう。
それから、(食べ物か飲み物か微妙ですが)カロリーメイトのゼリー。これは、疲れて食べ物が喉を通りにくくなった時にもじゅるじゅる吸いやすいし、栄養バランスも重さ当たりのカロリーも他の同系製品より上ですから、多少値段が高くても選ぶ価値はあります。(カロリーメイト屋さんの回し者みたいになってしまった。。。)
- 防寒着
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盛夏の富士山頂の気温は、大まかに言って北九州から南関東にかけての太平洋沿岸(平地)の冬と同じくらいです。その辺りに住んだことがある人は、そこでの冬の寒さを想定して下さい。晴れていれば、登っている時は薄着でも寒くない(むしろ暑い)かもしれません。しかし、止まると(特に陽が出ていない時にはすごく)寒いです。風邪を引かぬよう。
物としては、ウールのセーターやフリースの類でいいと思います。山頂で御来光を待つ予定の人は、少し厚手のものを用意した方が無難です。
- ライト
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日の出ている間しか行動しない予定であっても、必ず持参して下さい。登山用のヘッドランプがあれば最強ですが(通常はLEDのみのものでも可)、吉田口・河口湖口を使わないのであれば&杖を持たないのであれば、手に持つ懐中電灯でも概ね大丈夫です。ミニマグライトのようなものに紐を付けて腰からぶら下げられるようにしておくと便利。
いずれの場合も、雨に耐えられる防滴もしくは防水仕様のものにすること。そして予備の電池を持つこともお忘れなく。軽めのものが楽でよいと思います。
- 救急用品
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ちょっとした擦り傷、切り傷用の消毒薬と絆創膏。転んで擦り剥いた場合だけでなく、靴擦れ時の気休めにも使えます。内服薬は・・・具合が悪くなったら無理をせず下山というのが基本ですが、下痢止めや鎮痛解熱剤等、持っていれば使える場合もあるでしょう。それと、もしきちんと使えるならばテーピングのテープ。軽い捻挫等には有効です。
健康保険証(の写し)があると、何かあった時には役立つかもしれません。
- 背負い鞄(ザック/リュックサック)
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以上の装備が入るものが手元にあれば一応それで行けます。しかし、なるべくなら軽くて背負いやすい(肩ベルトのしっかりした)デイパックや小型の登山用ザックの方がよいです。疲れ方が全然違います。足が疲れている時に、肩まで痛かったりそれが上に回って頭痛まで招いたりしたのでは大変です。(ショルダーストラップの細いものだと、肩に食い込む感じになりがちです。)
新たに買う場合、大きさ(容量)は概ね25リッター程度あれば必要な装備は入ると思いますが、もう少し大きめのものを選んでおいた方が楽です。店頭でいろいろ背負ってみて、身体に合ったものを選ぶとよいでしょう。しっかりした腰ベルトの付いたものは、まず肩ベルトを緩めてから、腰骨の出張った所を腰ベルト(パッド)の上下方向の中心に合わせて少しきつめに締めます。その後肩ベルトを程よく締め(締めすぎないように)、ザックが背中にぴったり寄るものを選んで下さい。
雨が降ると、(マックパックの高価な登山用ザックを選んだ場合を除いて)鞄の中は濡れます。「ザックカバー」という、背負い鞄用の雨具なんかも登山用品店にはありますが、ホームセンター等で売られている厚手のポリ袋をまず空の鞄に詰め、その中に荷物を入れて、ポリ袋の口を折り畳んで水が入らないようにしておけば大体大丈夫です。どうしても濡らしたくないものは、小さなビニール袋等に入れてからしまえば更に安心。
- お金
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宿泊費や登山口までの交通費+1-2万円程度。トイレ用として、100円玉を10枚くらい持っていくこと。
- Tシャツ・長袖シャツ
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綿100%のものは汗で濡れるとびたびたして気持ち悪いし止まると寒いので、出来れば(特にTシャツは)速乾性素材のものがいいでしょう。ポリエステル70%から100%のもの。登山用品店等にありますが、Tシャツはuniqloにもあったりします。
- 帽子
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強い陽射しを遮る為のもの。「レインハット」の類なら、雨の時の雨除けにもなります。雨具にフードが付いていても、出すのが面倒だし被ると音が聞こえにくくなりますから、帽子でしのげるならその方が気楽です。
手持ちのもので構いませんが(防水スプレー等を掛けておくといいでしょう)、あご紐で固定出来るものじゃないと風で飛ばされがちです。「キャップキーパー」なんてものも登山用品店にはあります。帽子を服の襟に留めたり、後付けのあご紐として使えるものです。
気合いを入れて新たに買うなら、折り畳めるゴアテックス(や、類似の防水透湿素材)の登山用ハットなんかが便利で快適かもしれません。
- サングラス
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裸眼の人は、眼の紫外線対策として持っていくといいでしょう。スポーツ用ゴーグルでももちろん構いません。というより、そちらの方が頼もしいです。見た目は透明だけど紫外線をカットしてくれるものが見やすくてよいと思われます。
なお、普段はコンタクトレンズを使っている人も眼鏡で行くことをお勧めします。砂が入って眼を傷めるのを避ける為です。晴れた日には砂が舞っています。砂走下山道だと、砂煙の中を歩くことになったりもします。
- ぱんつ・長すぼん
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ぱんつも速乾性のものが快適ですが、汗で濡れてしまった場合に体温の奪われる度合いはTシャツ程高くないので、普段のものでも大丈夫と思います。
長すぼんは、伸縮性のある速乾性素材のものが快適だそうです。登山に適したものが登山用品店等にありますが、やや高価です。私は無雪期に(炎天下の御殿場口を含め)合計四回Levi'sのジーンズで登ってみた&それで不都合を感じたことが無いので詳細はよく分かりませんが、安っちいナイロンのカーゴパンツみたいなものでも案外よいようです。いずれにせよ、動きにくいもの、破けやすいもの、汚れると困るものは避けましょう。
- 靴下・スパッツ
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靴下は厚手のものを。吸汗・速乾性素材のものが快適です。登山用品店等にあります。冬山用のやたら分厚くて暖かいものまでは不要です。
登山用のスパッツは、靴の上部から下肢にかけてを覆う筒状のものです。富士山では主に靴の足首部分から砂が入るのを防ぐ為に用いられます。長さは短いもので十分です。これも登山用品店等にあります。靴自体がくるぶしの上辺りまであるものなら、スパッツは不要です。御殿場口下山道の大砂走りでも、そこまでは潜りません。
- 靴
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これは難しい。サンダルやハイヒールは駄目ですが、地下足袋で登る人もいますし、安っちいスニーカーでも登れない(下れない)ことはありません。しかし、一般には「トレッキングシューズ」や「軽登山靴」といったものがお奨めです。ある程度高さがあるもの(くるぶしまで覆う「ハイカット」のもの)がよいでしょう。
では、どんな物を選べばいいか。具体的に吟味する前に、富士登山に求められる靴の役割を考えてみます。ぱっと思い付く範囲で、概ね以下の通り:
- 足裏を地面のでこぼこから守る。
- 足をヤスリのような砂から守る。
- 足を岩に擦ったりぶつけたりした時の衝撃から守る。
- 足を雨(水)から守る。
- 足首を横方向への不意の捩れ(捻挫)から守る。
- 置いた足が不意に滑らないようにする。
これらを満たすものとしては、頑強な重登山靴(厚い革製で、靴底もやたら固い。)が最強です。さすが登山専用品。しかし、重登山靴には欠点もあります。重たいこと、値段が高いこと、足に馴染みにくいこと等。なので、一部の項目では若干重登山靴に劣るけれど、軽くて値段も比較的安いトレッキングシューズやら軽登山靴といったものが選択としては無難です。
この類の靴の場合、最近の製品は大半がライニング(靴の「内張り」:実際には外張りと内張りの中間に挟まれている層)にゴアテックスや類似の素材を用いており、防水性や透湿性が確保されていて、「濡れると冷たいスニーカー」や「やたら蒸れてしまう革製旧式重登山靴」よりも快適です。(余談ですが、昔の「キャラバンシューズ」はライニングがゴムで縫い目の漏れ止めもなされておらず、今の製品には色々な点で劣ります。)
ところで、「トレッキングシューズ」と「軽登山靴」はどう違うのでしょう。明確な定義は無く、境界は曖昧です。比較的軽くて柔らかくて安めのものがトレッキングシューズ、もう少し重めで固くて本格的なのが軽登山靴といった理解でいいような気もしますが、本当に曖昧です。
さて、やっと具体的な吟味に入ります。富士登山用に新たに買うのであれば、例えば数千円で売られているホーキンスのハイキング靴でも行けます。これなら、富士登山後には街でも使えるでしょう。もう少し予算に余裕があったら、或いは今後も山歩きをしてみるかもしれないなら、登山用品店で売られている1-2万円台のトレッキングシューズ/軽登山靴を買ってみるのもいいかもしれません。機能的には、やはり数千円のものとは差があります。
ただ、謳われている機能以上に大事なのは、靴が足に合うこと。いくら高価で高機能な靴でも、足に合っていないと悲惨です。買いに行く際は厚手の靴下(実際に富士登山に使うもの)を持参し、色々な種類/サイズの靴を納得の行くまで履き較べてから決めて下さい。そして、買ってきたら慣らしておくことも重要。近所を歩いたり、出来れば事前に近くの山に登ったりしておくとよいでしょう。
最後に、靴紐の締め方について少し。登りでは甲の上端(足首の折れ曲がり付近)までしっかりと締め、足首は少し緩めにしておく。下りでは足首までしっかりと締める。但し、締めすぎて血行不良を起こさない程度にして下さい。
2013.06.27追加。先日入ったチラシを基に、近所のハイパーマーケット(所謂ホームセンター的なものを含んだ大型店舗)と登山用品店で必要な装備の一部を揃えた場合の価格比較をしてみましたので載せておきます。登山用品店で揃えた装備は、国内の夏山なら概ねどこででも使えることでしょう。或いは、夏に富士山へ観光登山しに行くだけならばホームセンター級の商品でも何とかなります。