last modified: 2007.07.29
富士 - もくじ |
歩き方のコツ同じ人が同じ道を登ったり下ったりするのでも、どのように歩くかによって楽ちんさが違ってきます。ここでは、少しでも楽をする為の歩き方について考えてみます。また、富士山へ登る前の身体の準備についても触れてみます。 #原則として、自分の両足で坂道や段差の安全な登降が可能な人を対象としています。
全般的な注意
登り方速さ無事登頂する為に一番有効なのは、ゆっくり登ること。特に、歩き始め(長時間の休憩後を含む)の十五分くらいは輪をかけてゆっくり行くとよいです。 長い時間続けて登る(運動する)為には、身体に蓄えられた脂肪を燃料として活用することが大事です。ところがあまりきつい運動をすると、脂肪ではなく筋肉や肝臓に蓄えられたグリコーゲンという燃料を多く使ってしまいます。グリコーゲンはそんなにたくさん蓄えられていないので、それが尽きるとおしまい。いわゆる「バテ」が来てしまって、もうその先を登る気力も失われてしまいます。これを避ける為に、ゆっくり登るのです。 では、「ゆっくり」とはどれくらいのことなのか。人によってその速さは大きく異なりますが、極端に苦しくならないペースのことです。しかし、これでは漠然としすぎていて慣れないとよく分からないかもしれませんので、ここでは具体的な目安となるものを見繕います。ずばり、脈の速さ(心拍数)です。 歩きながら、或いはちょっと立ち止まって、十五秒間の脈拍を数えて下さい。手首の内側で測ってもいいし、頚動脈のところでも心臓の上に手を当てるんでも構いません。そうしたら、十五秒間の回数を四倍します。それが一分間の心拍数です。その数が以下の表の値を超えているようなら、ペースを落とした方が無難です。
【上限値の計算式:(220−年齢)×0.75[回/分]】 なお、この数値はあくまで目安です。同じ年齢でも適正な上限値は人によって異なりますし、算出する計算式自体も色々ある説のうち中庸と思われる辺りを私が(自らの体験と周囲の人々のデータを基にしつつ)勝手に拾っただけなので、絶対的なものではありません。数字よりも、自分の身体に訊いてみる方が確実です。「こんなペースでは、とても歩き続けられそうにない。」と感じたらペースを落として下さい。もし息が上がっちゃったら、ちょっと止まって腹式呼吸を深くゆっくり行い、息を整えるとよいです。 足の運び上述のようなペースを守って登る為には、出来るだけ強い力を使わない登り方が大事です。 まず、一歩で稼ぐ標高差をなるべく小さくすること。具体的には、歩幅を狭くして、大きな段差があったら出来るだけそれを避け、もっと小さい段差で上がれるルートを探すこと。これによって歩く距離(道のり)自体は延びますが、一歩当たりの負担(運動の強度)は小さくなり、脂肪を燃やす有酸素運動を多く出来ます。 脚の使い方も重要。平地を歩く時には、通常つま先で地面を後ろに蹴って進んでいます。ふくらはぎの筋肉を使うやり方です。登山では、これをなるべく避けます。具体的にはこうです:
2.で重心を移動させる際に後ろに残した脚の蹴りを使いますが、ここでもふくらはぎ(つま先での蹴り)をあまり使わず、太ももの筋肉を使うようにします。足の裏全体で(意識としては、踵で)じわりと地面を押すような感じです。(急激に身体を持ち上げたり、ふくらはぎの筋肉に頼った歩き方をすると、脚を攣る可能性が高くなります。) このような歩き方をするには、
と、やりやすくなります。こうすれば重心が足の間から外れることが減り、バランスよく登れます。また、滑りやすい路面でも滑りにくくなり、体力の無駄な消耗も防げます。 呼吸腹式呼吸でゆっくりと深く、というのが基本です。意識としては、お腹の力で息をゆっくりと深く吐くようにするといいでしょう。酸素が薄くなって苦しくなると呼吸が速く浅くなりがちですが、逆効果なので注意。 なお、適度のおしゃべりは気を紛らわせたりするのに有効ですが、あまり喋り続けると苦しくなりますので程々に。 休憩休憩の取り方は意外と問題です。決まった取り方があるわけではないのですが、あまりでたらめに休憩していると時間が掛かるばかりか登りの辛さも増します。そこで、大まかな指針を示してみます。
「登りは長くてきついのに、そんなに休まないまま行けるか!」と思われるかもしれません。しかし、休まずに長時間歩けないとしたら、それはその時のペースが貴方には速すぎるということです。富士登山は競争ではないので、焦らずゆっくり楽しく登って下さいな。 下り方岩の多い区間御殿場口上部と富士宮口の大半がこれに該当します。固い岩の作る大きめの段差が多く、脚には酷な道です。特に、富士宮口は山頂から新六合目までほぼ全てが固い急坂なので、脚に自信の無い場合は御殿場口七合目から宝永山を経由するルートで下った方がいいかもしれません。 さて、その固い岩の道を下るコツ。
他には、杖の類を使ったりするのも脚への負担を減らす上で有効です。いずれにせよ、どたどたと乱暴に下るのはよくありません。足や膝や脳への衝撃が小さくなるよう、ちまちまと静かに下りましょう。 砂走りの区間須走口の大半と、吉田口・河口湖口の上部、御殿場口の中間部分がこれに該当します。他の山では滅多に味わえない、富士下山の醍醐味とも言える領域です。と言っても、須走口及び吉田口・河口湖口の上部と御殿場口の中間部分では砂の深さが大分異なります。前者は浅め、後者は深めです。 では、その砂走りを楽にこなすコツ。
以上。「土踏まず」さえ意識すれば、そんなに難しくありません。足先を多少外側へ向けるようにすると、下に岩があった場合に足首を捻挫する危険を減らせるかと思います。砂が深いようなら歩幅を広く、浅いなら狭くするとよいでしょう。 それ以外須走口下部の樹林帯の歩き方は、「岩の多い区間」に準じます。ゆっくり静かに歩けば、岩場よりも脚への負担が少なくて楽です。 問題なのは、吉田口・河口湖口の大半と御殿場口下部の固いブルドーザー道。御殿場口はそこまでが比較的楽だし、固い区間の距離も短めなのでまだましなのですが、吉田口・河口湖口は長くて大変です。滑りやすいし、足を捻るには適当なサイズの小岩〜石がごろごろしていたりもします。一番いいのは、吉田口・河口湖口の下山道を使わないことです。バスで帰るなら(バスの時刻を確認の上)他の下山道から下ればいいですし、車なら吉田口・河口湖口から登らなければいいだけです。 ここまで書いても吉田口・河口湖口から下りたい人は、事前に脚力をつけておくとよいでしょう。膝を半分まで曲げるスクワットを毎日百回やる、といった簡単なことでも効果はあります。荷物を背負ってやったり、回数を増やしたり出来ればなお頼もしい。あとは、階段の下り。勤務先や駅の階段、少なくとも下りは全部階段を使うようにすると良いトレーニングになります。また、膝を保護する為のごついサポーターなんかも或る程度有効です。(保温用の薄くて柔らかいものではあまり役立たないかと思われます。) 歩く際の注意点としては、
くらいでしょうか。転倒や捻挫の危険を減らせます。 休憩下りでの休憩の取り方は、登りに較べると「どうでもいい」度合いが高いと思います。長めに休んでも、休憩後の辛さが増すことをさほど気にしなくてよいでしょう。歩き始める前に、関節や筋肉をほぐしておくことで怪我の危険性を減らせます。 使えるかもしれない道具えーと、道具に頼って楽をするという考え方を突き詰めていくと、ヘリコプターで運んでもらって山頂へ行き、やった!ということにもなりかねないのですが、人は服を着たり靴を履いたりして楽をしているのも事実なので、「人力」を有効活用するといった目的での道具の使用はよろしいのではないか、と私は思います。 そこで、「歩き」を助けるようなちょっとしたアイテムをここでは紹介してみます。
事前の準備病気や怪我が無く、日常生活を問題無く送れる程度に健康な人を対象として、楽しく富士山に登る(体力的な問題での敗退可能性を減らす)為のトレーニング方法を紹介してみます。トレーニングはここに書かれた方法でなくても構いませんし、特別なトレーニングなど全くせずとも問題無く登れてしまう人だっていますので、必要に応じて軽く参考にしていただければ、と思います。 まずは、近所を2kmくらいジョギングしてみて下さい。ゆっくりでいいです。足等の都合で走れない方は、二十分を目安に「急いで歩く」というのでもOKです。二日酔いの時や炎天下は避け、事前に適度の水分を補給し、よく準備体操をしてからやって下さい。運動不足を自覚する方は、特に足首を念入りに(片足百回くらい)ぐりぐり回してからどうぞ。また、途中で苦しくなったら、無理をせずに中止して下さい。 さて、いかがでしたか?「いい運動になったな。気持ちいいや。」程度で済んだ方は、或いは、普段からもっと負荷の大きい運動をしている方は、下の「練習の例」へ進んで下さい。そうでない方は、まずここを突破できる身体を取り戻しましょう。 こういうのは、日頃の生活態度が効きます。まずはまともな食生活を心掛け、毎日お酒を飲んでいる人は週二日の休肝日を設ける。電車やバスで通勤・通学している人は、一つ隣の駅やバス停を利用して、一日に十五分×2、合計三十分くらいは足早に歩くようにする。車通勤・通学や在宅勤務・修学等で普段あまり歩かないといった方は、朝早起きして三十分くらい近所を散歩する。建物内ではなるべくエスカレーターやエレベーターに頼らず、階段を使うようにする。(職場が五十階にあるってな方は、最初から無理しなくていいです。程々に。因みに下りだけ階段、でもかなりの効果があります。) こういった心掛けで、3kmのジョギングもしくは三十分のすたすた歩きをこなせるレベルを目指して下さい。それが出来たら、富士登頂に確実に一歩近づいたと言えましょう。更に近づく為に、次の段階へ進んで下さい。 練習の例上記をクリアした人を対象に、実際に山へ登ってみる練習を紹介します。水泳や自転車乗り、走り込みといったトレーニングで心肺機能を中心とする体力の向上を図ることも有効には違いないのですが、山登りに使う道具や「山登り」という行為そのものに慣れておくことは富士登山を楽しく成功させる為にかなり有効です。(下りで使う筋力を付けるには、水泳、自転車乗り、ランニングはあまり役立ちません。) 以下の行程をこなす際、出来れば実際に富士山へ持って行くのと同じような荷物を持って行くといいでしょう。靴も、富士山へ履いていく予定のものを履いて行けば、よい慣らしになります。余力があったら、荷物に1-2kgの重り(水を入れたペットボトル等)を加えておくと更によい訓練になります。 そうそう、よほど整備の完璧なハイキングコースへ行く場合以外は、ちゃんとそこの地図も持って行って下さい。低山でも迷って遭難騒ぎに発展することがあります。
おしまいに:直前から当日のことここまで、うだむだと役に立つんだか立たないんだか分からないようなことをいっぱい書いてきましたが、最後にそれを無にするようなことを言います。「富士山へ登るのに、そんな面倒臭いことは要らねえ!」です。最低限の体力はどうしても必要ですが、歩き方だの事前の身体的準備だのといったことは、言ってしまうと「好きにすればよろしい」。 あまり難しく考えず、気楽に行って下さい。当日までの食事も普通にしていればいいし、大きく体調を崩していなければ多少睡眠時間が少なかったり何だりしても平気です。あれこれ心配するより、ぴゃっと行っちゃうのが一番です。こんな記事を最後まで読んで下さるような方は、準備もしっかりと出来ることでしょう。 後は、「気合い」あるのみです。楽しい富士登山を。 |