吉田口・河口湖口に次いで多くの人が集まるのがこのルート。出発点の標高(2380m)は四つの主要ルート中最も高く、駐車場までの道路(富士山スカイライン:旧表富士周遊道路)が山梨側の富士スバルラインと違って無料化されているのも人気の理由かもしれません。日の出直後には影富士が見えたりしますし、間近に見える駿河湾の景観は雄大ですし、剣ケ峰への最短ルートでもあります。
一方で、人気ゆえの問題も多々あります。まずは駐車場。混雑するシーズンには溢れ返り、登山口から何キロも下に車を置いて登ったという話をweb上で目にします。また、このルートは登山道と下山道が同じなので、人の多い時にはすれ違いに気を遣うことになるでしょう。ガレ場(岩がごろごろした区間)が多く砂走り(砂がさくさくした区間)が無いため、下山時の脚への負担も小さくありません。また、御来光を拝むにも好適とは言えないルートです。(やや問題のある下りのルートには、裏技があります。下で紹介。)
そんなわけで利点と欠点のはっきりしたルートですが、混雑した時期を避けられるならば「ピークハント(山の頂上を「狩る」、つまり登頂を目的とすること)」には最適でしょう。
- 新五合目から新六合目まで
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よく整備されたなだらかな遊歩道です。普通に登ると十五分程で着きますが、敢えてゆっくり歩くといいかと思われます。三十分掛けるくらいのつもりで。登山口付近でも既に酸素が薄めなので、身体をこれからの登りに慣らします。
- 新六合目から八合目まで
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山小屋の裏へ回ると、いきなりの急登です。意識的に歩幅を狭くする感じで、ゆっくり登るといいでしょう。焦らなくても、このルートは一番山頂に近いのですから。六合目の廃墟(というより、辛うじて存在を確認出来る何かの残骸)を見送り、先程まで見上げていた宝永山頂に並び、段々見下ろすようになります。一時間程で新七合目の山小屋に到着。一時間半から二時間掛けても構いません。自分のペースでゆっくり登ればいいのです。
新七合目の上には、霧が出ていなければ七合目の山小屋が見えます。「次は八合目じゃないのかよ!」なんて思わないで、手頃な次の目標と思って登って下さい。ゆっくり登って一時間程で七合目に着きます。もちろん、もっと遅くても構いません。極端に苦しくならないペースを守って登ればOKです。七合目で、標高は約3000mに達しています。
七合目からは八合目の山小屋が見えます。一歩一歩ゆっくり登って、また一時間程で八合目に到着。このルートは、目安となる山小屋が比較的規則正しく並んでいるので歩きやすいと思います。天気が好ければ、上に見える山頂が現実味を帯びてくる頃です。
- 八合目から山頂(浅間大社奥宮)まで
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いよいよ山頂へのアタックです。八合目から先も、程よい目安が続きます。九合目、九合五勺、そして山頂という、労力的にほぼ均等な三つの区間に分けられます。しかし、標高は既に3200mを超えています。国内の他のどの山岳よりも高い所です。薄い酸素にやられないよう、焦らずじっくり登りましょう。
この区間は脚力よりも心肺機能によって登れる速さが変わってきます。この三つの区間を、強い人なら二十分×三で一時間、普通の人なら三十分から四十分×三で一時間半から二時間、弱めの人だと五十分から一時間×三で二時間半から三時間くらいでしょうか。いずれにせよ、八合目まで「高山病」の症状(酷い頭痛、吐き気、極端な息切れ等)に悩まされることなく登れたなら、登頂はほぼ時間の問題と思っていいでしょう。山頂が近くに見えるからといって無理をせず、脈が上がりすぎないペースでゆっくり登って下さい。
- 浅間大社奥宮から剣ケ峰まで
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山頂に着くと、そこには浅間大社奥宮があります。やった。でも、折角なのですぐ近くの剣ケ峰まで行ってみましょうか。吉田口登山道等と違い、このルートは標高3776mの日本最高地点が近いのも魅力です。
下から山頂に向かって左(お鉢を時計回りに辿る方向)に進むと、富士館裏のやや広くなった所の先に(霧が出ていなければ)剣ケ峰への登りが見えます。すぐ左上に見えるのは三島岳ですので間違えないように注意して下さい。もっと先です。剣ケ峰への登りまではなだらかな道なので、特に問題は無いでしょう。
さて、剣ケ峰直下へ着いたら、そこから急な登りです。標高差はたったの50m程しかありませんが、この高さでの登りなので楽ではありません。「すぐだし。」とか思って飛ばすと、思った以上にきつく感じます。ここでも、慌てないでゆっくり登ることを心掛けましょう。また、この登りは滑りやすくて少々危険な場合もあるので、前の人との間隔を空けて歩くようにして下さい。降りてくる人ともぶつかったりしないように。
ひと頑張りで、測候所の下に出ます。状況が許せば、ここでカメラや貴重品以外の荷物を置いていくと楽です。測候所への階段を上っていくと、日本最高地点を示す標識があります。人々が入れ替わり立ち替わり写真を撮っているかもしれません。あまりにも人が多い時は、標識とのツーショットに固執するのはやめておきましょうか。こんな所でいらいらするなんて面白くありませんからね。
そのすぐ先の左側に、展望台へ上がれる梯子があります。ちょっとせまいのですが、頭をぶつけたりしないように注意しつつ上がってみて下さい。天気が好ければ絶景です。しばらく景色を堪能したら、来た道を戻ります。測候所手前に荷物を置いた人は、忘れて行かないようにして下さいね。
- 下山:山頂から新五合目まで(富士宮口登山道)
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浅間大社奥宮の所から、登ってきた道を戻ります。岩が多く、膝に負担が掛かりがちですので注意して下りましょう。落石を起こさぬよう、そっと歩いて下さい。登ってくる人がいたら、原則的には登ってくる人に道を譲ります(実際には臨機応変で)。新五合目の駐車場まで、概ね二時間から四時間程の道のりです。
- 下山:山頂から七合目まで(御殿場口登山道)
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登った道を下るのはつまらないし、脚への負担も大きめなので提案したいのがこの裏技。御殿場口を下り、途中で宝永山に寄ってから富士宮口新六合目に戻ってくるルートです。地図上で見ると遠回りに思えますが、路面の歩きやすさや変化に富んだ景観などから、退屈せず楽に下れるでしょう。
下山口は、浅間大社奥宮からほんの少し東(剣ケ峰と反対側)へ行った、銀明水/銀明館のある所です。御殿場口も上の方は登山道と下山道が同じなので、迷うことは無いと思います。初めは、石がごろごろした道を下ります。このごろごろ石は微妙に不安定なので、登る時には大変です。しかし、下りだと特に気になりません。むしろ、適度にずれて着地のショックをやわらげてくれます。ただ、落石を起こさないように気を付ける必要はあります。
すいすい下り、八合目の見晴館跡を過ぎ、赤岩八合(七合九勺)の白い赤岩館を過ぎ、もう一つ崩壊した廃墟を見送り、七合五勺の山小屋も過ぎて更に下ると、七合目日の出館に着きます。ここまで、すたすた歩けば一時間くらいでしょうか。ゆっくりでも二時間見ておけば行けると思います。
- 七合目から宝永山まで(御殿場口下山道経由)
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日の出館のすぐ下で、登山道と下山道が分岐しています。間違えずに下山道の方を進みます。ここからが富士山名物「砂走り」です。下山口の案内板にあったように、一歩3メートル余り
で飛ぶように下る・・・というのは普通の登山者にはちょっと大げさ。3mを超える歩幅は、走らないと得られません(でも、走れば得られます)。さくさくと砂が深く、足や膝へのショックは最小限です。気持ちのいい下り。土踏まずから着地するようなイメージで、歩幅を広く取って歩くといいようです。
五分から十五分程行くと、御殿場口下山道と宝永山・富士宮口への道とが分岐します。案内板が足元等に設置されていますので、見落とさないように。右の宝永山・富士宮口新六合目方面へ進みます。視界が開けていれば宝永山の見える方向に行くだけですので間違えることもないでしょうけれど、霧の時は注意。
宝永山頂に続く稜線へと進むうちに、右側にぽっかりと口を開けた宝永火口が見えてきます。ダイナミックな光景です。やがて宝永火口を経由して富士宮口新六合目へ続く道(七合目から宝永山頂に向かって右)と御殿場口下山道へ下りる道(左)が分岐する鞍部に出ます。宝永山頂はすぐそこだし高低差も殆ど無いので、天気が好ければ宝永山頂まで行ってしまいましょうか。その場合は右でも左でもなく、真っ直ぐです。
- 宝永山から新六合目まで
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宝永山頂には何かの残骸があるだけですが、その東〜南側には切れ落ちた崖から赤黄色い溶岩が露出していたりします。落ちないように安全な範囲で見てみるといいでしょう。また、西側の宝永火口は威圧的です。こんなのが江戸時代に出来たんですね。その向こうを見ると、富士宮口の登山道を歩く人が見えるかもしれません。
景色を楽しんだら、先程の分岐(鞍部)まで戻ります。案内板に従って、富士宮口の方へ下ります。宝永山頂から北に向かって左、火口の底に降りていく道です。ここは面白い。ダイナミックな景色と、ざっくざくの深い砂礫。登るのは嫌ですが、下りなら爽快。但し、浅い靴だとスパッツ無しでは靴の中が砂だらけになるの必至。膝への負担は最小限です。
ざしゅざしゅ下って火口の底へ降り着き、僅かな登り返しで火口の反対側へ出たら、そこはもう新六合目から続く遊歩道の一部です。殆ど標高差の無い穏やかな道を西へ進むと、十分程で新六合目の山小屋に戻れます。楽しい旅もそろそろおしまいに近づいて来ました。
- 新六合目から新五合目まで
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登る時、最初に通ったなだらかな道です。最後の最後で捻挫等しないよう、慌てず丁寧に下って締め括りましょう。十分から十五分程で駐車場に着きます。登山口の駐車場に車を置けず、下の方に置いてしまった場合はそこから更に下ることとなりますが・・・お疲れさまでした。